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松本の要求はまだ続いた。二つ目、診察で引っかかった者は月に一度医者に見せること。三つ目、湯殿を早急に設けること。四つ目、残飯処理もかねて豚を買うこと。五つ目、桜司郎の診察をするための部屋を貸すこと。
「ぶ、豚だァ!?そんなモン臭えし、第一どうするって言うんですか」
「最終的には食うんだよ。あれは滋養強壮にも良い」
その言葉に土方は絶句した。https://www.easycorp.com.hk/blog/%e9%a6%99%e6%b8%af%e9%96%8b%e5%85%ac%e5%8f%b8%e6%95%99%e5%ad%b8%e9%96%8b%e5%85%ac%e5%8f%b8%e6%b5%81%e7%a8%8b%e9%80%90%e6%ad%a5%e6%95%b8/ 肉を食べると言えば、専ら鹿や猪、鳥である。豚など食べるものではないと思っていた。
「出来ねえかい?」
だが、そのように問われては無理だとは言えない。分かったと声を絞り出した。「後は、」
「まだあるのか」
一体、いくつ要求するんだと土方は目を細める。松本は気にすることなく、懐から扇子を出すと土方に向けた。
「あんたの休息日を設けることだ。今はればたちまち体調を崩すぞ」
その言葉に、土方は心ノ蔵が飛び出るんじゃないかと思うほどに驚く。
土方は数え年で二十七の時に大病を患ったことがあった。大病といっても幾つもあるが、その中でも死病として名高い"労咳"にかかったとされた。
かつて、両親や兄姉を労咳で亡くしているためか、土方の異変に兄姉達は即座に気付いたという。一時は枕元に親族を呼ぶほどに重篤化したが、奇跡的に治癒したのだ。
それもあってか、土方はすぐに体調を崩してしまう。しかし、鬼の副長という建前もあり隊士には気取られないようにしていた。
「……何故、分かったんです?」
土方の問いかけに、松本は気分が良さそうににやりと笑う。
「まず、あんたのその病的な白さだな。呼吸の仕方、脈の不安定さも大病を患った人間のソレだ。後は……経験と勘だ」
幕府の御典医になるだけあって、大した医者だと土方は途端に松本を認める。今まで隠し通して来た為に事情を知るのは近藤、そして地元が同じ井上だけだった。
参ったと言わんばかりに土方は軽く頭を下げる。本来であれば長い月日がかかる筈の土方の信頼を、この松本はたった一度の診察で勝ち取ってしまったのだ。
「……相分かった。条件に付いては善処しましょう。それと、鈴木の診察には私の部屋をお使い下さい。見張りは私が引き受けます故」
そう言いながら、土方は立ち上がる。部屋を出ようとした背に松本は口を開いた。
「土方君。これァ、ただの興味なんだが。何故女の入隊を認めた?ってェ訳じゃあねえんだろう?」
「……覚悟の深さに、男も女も関係ねえと心得ております。それと、そいつはもう武士として扱って頂きますよう頼んます」
振り返ること無くそう言うと、今度こそ土方は部屋を出て行く。松本は楽しそうに笑い声を上げた。
「わはは!良いねェ、覚悟の深さと来たか。やはり新撰組は
ェや」
ある種、時代錯誤に近しい武士道を持ちつつも、近代的な思考も取り入れる人間臭さのある新撰組を松本はいたく気に入る。松本も新撰組幹部も江戸の出であることから、そもそも波長が合っていた。
「さ。最後はあんただ。前を開けな」
そのように言われた桜司郎は戸惑うように松本へ視線を移す。改めて松本良順という人間を見てみると、厳つさの残る坊主頭、上質な羽織に紋付袴。道中脇差を帯刀し、おまけに体格まで良い。その姿はまるで武士の風格すら感じさせた。
袷を握り締めたまま動かない桜司郎へ松本は首を傾げた。
「恥じらっていやがんのか。さっき土方君から言われたろ、武士として扱えと。潔さが肝心だぜ」