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一人快然と微笑(わら)う夫を、小見の方は怪訝とも得心とも付かぬ表情で、しげしげと眺めるのだった。
草木も眠る丑三つ刻。
那古屋城・奥御殿にある夫婦の寝所に、座敷の中央に敷きのべられた白い夜具の上に端座し、
道三から賜った短刀を、大事そうに両の手で握り締める濃姫の姿があった。
灯明の火はかれこれ一時ほど前に吹き消され、室内は障子越しに射し込む青白い月明かりのみであったが、
濃姫はそれでもお構い無しに、https://www.easycorp.com.hk/blog/profit-tax-return-in-hong-kong/ ほぼ影と形しか見えない短刀を、和やかな面持ちで眺めていた。
姫のすぐ傍らでは、夜着を着崩した信長が、小さな寝息を立てながらすやすやと眠っている。
帰城した時には、濃姫を掻き抱いて『今宵は寝かさぬ!』などと叫んでいた信長だったが、結局この通り。
事が済んだらさっさと寝入ってしまったのである。
だがそれも致し方のないことだろう。
此度の会見で散々体力と神経をすり減らし、正徳寺から那古屋城までの行きと帰りの往復。
その上道三を長々二十町も見送ったとあれば、疲れ切っていて当然である。
「……殿」
濃姫は、我が子を見守る母のような表情で、暫し信長の寝顔を見つめると、ふぅっと一息吐いてから再び短刀に目線を移した。
『──これをそなたに返すぞ。借りていた親父殿の刀じゃ』
『有り難う存じます。 …して、お役に立ちましたか?』
『ああ、大いにな』
『それは何よりな事にございます』
『親父殿の意はほぼ決まっていたようじゃが、儂がこの刀を身に帯びているのを拝された事で、
よりはっきりとお心を決めて下されようであった。きっと、そなたの思いが親父殿に通じたのであろうな』
つい数時間前。
この床の上で信長と交わした会話が、濃姫の頭の中を足早に駆けていった。
信長は思いが通じたと言うが、きっと道三は少なからずの失望を覚えた事であろう。
尾張攻略の布石であったはずの娘が、今ではすっかり信長の支持者となり、
道三から賜った短刀を、夫を殺める為ではなく、夫の命を守る為に使ったのだから──。
美濃の為に何一つ尽力出来ず、父の期待にも応えられなかった事を、濃姫は内心申し訳なく思っていた。
しかし、後悔の念などはまるでなかった。
自分ただ、道三から短刀を賜った折の『 父上様を刺す刀になるやも 』という宣言通り、この刀で父を刺しただけである。
鞘を抜かずして、道三の心をひと衝(つ)きにしてみせたのだ。
自賛こそすれ、いったい何を悔いる事があろうか?
──これで良かったのだ。察しの良い父上様のこと、きっと分かってくれていよう。
濃姫は自分に言い聞かせるように、何度も心の中で呟いた。
「……何じゃ、まだ寝ておらなんだのか」
ふいに信長の身体が大きく動き、その寝惚け眼が、布団の上で端座する妻の面差しを捕らえた。
「如何した? このような夜更けに。それも左様な物を握り締めて」
「…いえ、別に」
陰りのある微笑を浮かべつつ、濃姫が朴訥(ぼくとつ)に告げると
「よもや今更になって、儂の寝首を掻こうと算段致しておったのではあるまいな?」
信長は悪戯っぽく笑った。
姫の頬が静かに緩む。
「そんなつもりは毛頭ございませぬ。ここで殿を殺めてしもうたら、あなた様の天下統一を見届ける私の夢が叶わなくなってしまいます故」