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そして、間もなく一時(二時間)が経とうかという頃になって
「三保野」
「は、はい。姫様」
「城へ、殿の元へ帰ろう…。もう十分です」
濃姫は静かに告げると、ようやくその重い腰を浮かせたのである。
そのまま姫は、輿に戻ろうとして大きく踵を返した。
その時──
バシャッ!!
思いがけぬことに、道三から賜ったあの短刀が、帯の間からすり抜けて、川の中へ滑り落ちてしまったのである。
濃姫は「あ!」となり、慌てて水面に目をやった。
幸い、短刀は川の流れを受けることなく、落ちた位置に、そのままの状態で沈んでいる。
川もそれほど深くはなく、流れも緩やかである為、今ならば小者に命じて、短刀を取りに行かせることも十分に可能だった。
しかし、姫はそれをしなかった。Profit Tax Return In Hong Kong
もはや取りに行ったとて意味はないと、そう思ったのである。
この刀の真の主は、もうこの世の人ではない…。
父の死と共に、この刀の役目も終わったのだ。
まるで父への未練を断ち切るように、濃姫はそう思い及ぶと
「参ろうか」
静かに三保野に笑いかけてから、ゆっくりと輿に向かって歩き始めた。
その刹那
「──!」
大きな黒い影が濃姫の横を駆け抜けていった。
姫は初め、野良犬か何かが横切ったのだろうと思っていたが、背後からふいにザブーンッ!という、
川に岩でも投げ入られたような大音が上がったのを聞いて、何事かと慌てて振り返った。
視線の先の光景を見て、濃姫と三保野は思わず目を丸くした。
そこには、きちんとした身形(みなり)の小柄な女性が一人、腰から下を川の水に浸しながら、
袖が濡れることもお構い無しに、両手を真っ直ぐ水底に伸ばしている姿があった。
何かを探しているのか、闇雲ながらも、必死になって両手を動かしている。
「あの者、いったい何をしているのでございましょう?」
三保野が怪訝そうに眉根を寄せた時、川の中の女は「あ!」と声を上げ、水底から何かを引き上げた。
水が滴る女の手には、先ほど濃姫が落としてしまった道三の短刀が握られている。
“あれは…!”と濃姫が心の中で叫ぶや否や、女は川から上がり、そのまま小走りに姫の前に近付いて来た。
「畏れながら──これを。落とし物にございます」
女は濃姫の前で片膝を折ると、双の手に乗せた短刀を恭(うやうや)しく差し出した。
姫は驚いて、二、三度目を瞬かせると
「…そなた、これを取りに行く為に、わざわざ川の中へ飛び込んだのか?」
「はい。とてもお寂しそうに川の中を覗き込んでおられましたので、何か大切な物を落とされたのではと思いまして」
「………」
「違いましたでしょうか? 余計なことを致したのでしたら、申し訳ございませぬ。私はただ──」
「いいえ。……大切な物じゃ」
濃姫は小さく呟くと、そっと女の手から短刀を受け取った。
不思議な思いだった。
父への未練を断ち切ろうと泣く泣く見捨てたはずの短刀が、再び自分の手に戻って来たのである。
道三がこの短刀に込めた強い想いが、死しても尚 叫び続けているのかもしれない…。
何やら奇妙な気を感じると共に、大きな安堵の思いが、濃姫の胸の中でゆるやかに広がっていた。
「私の為に、申し訳ないことを致した。そのように美しき小袖を濡らさせてしもうて」
濃姫が詫びると、女はかぶりを振ってから、深く頭を垂れた。
「そんな…、畏れ多いことにございます」
「その身形からすると町民ではあるまい。名のある家の者か?」
「申す程の家ではございませぬ。…されど父は、丹羽郡小折の土豪にございまして…」