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──最悪な日。
というのは始めからずっと小さな悪いことが続く日となんの予兆もなくいきなり大きな悪いことが起こる日と2つに別れる。
慶応4年4月3日。
この日は後者だった。
まさに『最悪の日』だった。
今までの敗戦や失敗に比べても、彼ら新撰組の生涯の中で一番最悪な日であった──。
結局昨日の晩には美海の予想した通り雨が降った。
雨なんて別に珍しいものではないが、昨日の雨は春の雨だがなんだかとても寒かった。
「嫌な天気だ」Profit Tax Return In Hong Kong
相変わらず近藤がそうぼやいていたことを今でも覚えている。
そして明けて次の日。
事態は急変していた。
「副長ぉぉぉお!!」
バンと大きな音を立てて土方の部屋が開いた。
相変わらず寝起きが悪い土方は不快そうに布団の中から顔を出す。
「朝っぱらからなんだ。騒々しい」
「たっ大変です!!」
「落ち着いて要件を言え」
隊士は息を荒げながらも答えた。
「官軍が!既にこの地を包囲しています!!」
土方は寝ぼけていた目を見開いて飛び起きた。
「何だって!!?」
つい昨日下総に来たばかりだ。
流山に布陣してたった1日だけ経った日のことだった。
土方は立ち上がると素早く馬に跨がり、外に出た。
………いる…。
流山が包囲されたどころか、ここが、包囲されている。
土方が確認しただけでは、それは沢山の人数がいた。
民家の影からこちらの様子を伺っている。
………まずい。
それに何故だ?
何故こんなに早い?
どうする───?
土方は官軍の探知能力を少しばかり甘く見ていた。
彼らがこの地に足を置いたその時既に官軍はこの地に『新撰組』が来ることを知っていた。
もう必死だったのだ。
日野で道場を開いていた佐藤彦五郎を覚えているだろうか。
彼らは官軍が江戸に入国してから直ぐに四方八方に散らばったのだ。
が、おそらく運悪く捕まってしまった彦五郎の息子から洩れたのではないだろうかと思う。
また別の線から捜索していた所も下総に例の大久保がいることを掴んだ。
板垣退助は伏見での大久保を忘れてはいない。
そこから一つの仮説が出来た。
───大久保大和と新撰組局長、近藤勇は同一人物ではないだろうか。と。
そしてこの下総の地に急行してきたのだ。
何故にここまで新撰組に執着するか。
それはやはり、今まで殺られた同士の数が圧倒的に多いのが土佐、長州、薩摩だからだろう。
土方はいろいろな案を頭に巡らせるが、もう目と鼻の先に官軍はいる。
どうする……。
………どうする。
「近藤さん!!」
土方は中庭で農兵に剣筋を教えている近藤の元へ走った。
「おぉ歳。どうした?」
近藤は相変わらず無邪気な笑みを向ける。
熱心に指導していたようで、額からは大粒の汗が流れ落ちていた。
服も質素なものに変わっている。
「どうしたもこうしたも!皆を集めてくれ!官軍が、もう屋敷の外にいるんだ!」
土方はそんな近藤と対照的に焦りを拭えない。
この人は。
この人だけは逃がさなきゃならない。
生かさなきゃならない。
近藤勇。奴を日本一の大名にすると誓いを立てて多摩を出た。
近藤さんは俺の光だ。
だが、近藤さんだけを逃がせればそれで良かった。
なのに、今は………。
大事なものが出来すぎた。
近藤さんだけを逃がすなんて俺にはできねぇ…。
いざというときは…俺が…。
「知ってるよ」
「え?」
土方が頭をフル回転させている間にも予想外な返事が来た。
思わず拍子抜けて情けない声を出してしまった。
「近藤さん!土方さん!」
「副長!大変です!」
続々と状況を知った隊士や美海や沖田などの幹部が集まり出した。
皆、不安そうな顔をしている。
「だから、知っているよ」
近藤は土方にもう一度言った。
「じゃあなん「副長!どうするんですか!」
「副長!!」
隊士達から声が飛ぶ。
「総長には私の居場所はない。参謀ができた今、なんの役に立つと言うのだ」
その通りなのだ。只でさえ近藤の相談役のような立場なのに『参謀』という位置ができたため、もはや山南はすることがない。飾り物だ。
山南が副長に戻りたい理由はまだあった。
まだあるというより一番の理由かもしれない。
隊士への指揮権が全くないのである。指令は局長、副長、助勤、隊士と流れるためだ。
「うむ…。確かに…」
近藤は頷く。
「戻してくれ」
「わかっ「駄目だ」
近藤の言葉を遮ったのは土方だ。
このまま副長に戻れると思っていた山南は目を見開いた。
「何故だ」
「指揮官が多ければ多いほど隊全体が混乱する」
副長は俺一人でいい。
そう言いたいのだろう。Profit Tax Return In Hong Kong
「じゃあ土方くんが総長に格上げしてもらったらどうだ」
「それは無理な話だ」
いつもは温厚な山南も引かない。お互いがズケズケとした言い方になる。
近藤はオロオロとその場を見守るだけだ。
「土方くんは新撰組をいったいどうしたいんだ!本来は我々も志しているはずの攘夷を説く志士を見つけてはバサバサと斬り倒して!これじゃあ本当にただの人斬り集団じゃないか!」
「あんた。本当にそう思ってんのか…?」
土方は下を向いてフルフルと震えている。
「は?」
「本当にここを人斬り集団と思ってんのかよ!」
土方はいつになくキレている。
「あぁ!そうだ!」
お互い息を荒くしながら座っている。
「………失望したぜ」
「それはこっちの方だ」
「あんた…。伊東が来てからおかしくなったんじゃないか?」
「歳!」
近藤は土方が伊東と言ったことが気に障ったのだろう。
「なにを!」
ガタンと山南は立ち上がる。
「剣を握らない男に指揮官が務まるか」
「斬る以外にも方法はあるだろう!何故伊東先生のように政治面を考えない!」
「弱けりゃ斬られる。斬らなきゃ斬られる。剣を握らないかぎり俺らに待つのは死だ」
ここまでいくと土方は一種の気違いだが、こういう考え方をしていないかぎり新撰組副長は務まらない。
彼が気を緩めると一気に新撰組は潰れるだろう。
そのぐらいきつい立場なのだ。副長とは。
「頭を冷やせ」
最後にこう吐き捨てた。
「本当に君は殺すことしか考えていない!もういい!君の考えはよくわかったよ!」
山南には土方の考えは伝わっていないようだ。
ガラッ!
バンッ!!
山南は大きな音をたてて部屋を出た。彼がここまで荒れることはそうない。
「はぁー…」
土方は下を向いてため息を着いた。山南に対してではなく自分に対してである。
「歳…」
近藤は心配したような顔で見ている。
「すまない。一人にしてくれないか」
「あぁ」
近藤はゆっくり立ち上がると部屋を出た。
カラッ
カタン…
はぁ。俺が作ってしまった地位なんだよな…。
だから山南さんは……。
だがどうしても指揮は譲れない。
土方は新撰組を強くできるのは自分だけだと思い込んでいる面が少々ある。
誰にだって譲れないものがある。土方にとってのそれが新撰組なのである。
言ってしまえば局中法度も新撰組自体も彼が作り上げてきた理想像だ。芸術家でいう作品なのだ。
“土方くんは新撰組をいったいどうしたいんだ!本来は我々も志しているはずの攘夷を説く志士を見つけてはバサバサと斬り倒して!これじゃあ本当にただの人斬り集団じゃないか!”
ふと山南の言葉が脳裏に過る。
「……俺がやってることは正しいよな…?」
土方も部屋で一人、頭を抱えだした。
誠を貫くにはたくさんの犠牲がでる。
でもその誠は人によって違う。
《 ………思へば…、…世は…住み家にあらず……、…草葉に置く… 》
ふと光秀の耳に、信長の、あの甲高い声が微かに聴こえた。
正しく言えば、聴こえたような気がした。
何せ前方の寺の中では、男たちの怒声や寺を焼く炎、刀がぶつかり合う音、
甲冑をませながら兵たちが走り回る音など、様々な音が混ざり合ってうるさいくらいだ。
そんな状況下で、信長の声が微かにも聴こえて来るなど、まず有り得ない。
──じゃが、確かに今のは上様のお声…Profit Tax Return In Hong Kong
光秀は馬鹿げていると分かっていながらも、耳に手を当てて、そっと寺の方へ傾けてみた。
案の定、聴こえて来るのは刀をぶつけ合う音や、兵たちの声と足音ばかりである。
にも関わらず、何故か光秀の耳には先程の信長の声が、奥にこびり付いたように生々しく残っていた。
光秀はき物を払うかのく、馬のようにぶるぶると頭を振ってみたが、
耳の奥に残った余韻はなかなか陰をめず、いつまでも光秀の脳裏でのように響いていた──。
光秀を襲った異常な現象は、理解し難いながらも、ある意味では正常であったかも知れない。
彼が信長の声を耳にした同じ頃、炎に包まれてゆく最奥ので、
件の信長は、その高い声を朗々と響かせながら、敦盛のひとさしを舞っていた。
「 ──… “ 南楼の月を弄ぶ輩も 月に先立つて有為の雲に隠れり ” 」
演奏は無論、手には扇すらなかったが、長年好んで舞っていただけあって、足拍子が実に巧みである。
修羅物らしい激しい動きを物ともせず、信長は最後になるであろう敦盛を全身全霊で舞った。
「 “ 人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり、ひとたび生を得て(享け)、滅せぬ者のあるべきか ” 」
そんな彼の姿を、濃姫は室内の端に座して、な面持ちで見守っていた。
夫の最後の舞をその目に焼き付けようとするかの如く、濃姫はきもせず、ただじっと信長だけを見つめていた。
その両手には道三の短刀が固く握り締められている。
──この舞が終わった時、父上様から授けられたこの刀が、ようやく本来の役目を果たす。
──私が、己の生涯で決して果たすことの出来なかった役目を…
濃姫は短刀を握る手にグッと力を込めると、腹をくくったような強い瞳で、再び夫の姿を眺めた。
火の粉が降り注ぎ、炎がすぐ目前へと迫っているにも関わらず、信長の舞は振り一つうことなく正確で、
手先足先、寝衣の裾さばきすらも鮮やかと思えるほど、実に見事な仕上がりとなっていた。
やがて信長は、舞い終えたのか、ぴたりと動きを止めると
「ここらが潮時じゃな…」
そうひと言呟いて、濃姫に儚げな微笑を向けた。
濃姫も同じように微笑み、深くき返すと
「これを──お役立て下さいませ」
信長のらへとにじり寄り、手にしていた道三の短刀を差し出した。
武士ならばこのまま炎にまかれて死したりはしない。
負け戦を味わった多くの武将たちがそうして来たように、夫もまた、自刃という武士の花道を歩む覚悟であろう。
濃姫は、もはや心得事と言わんばかりに、短刀を更に前へと差し出した。
「太刀ではか難儀にございましょう。これならば手頃。それに───上様が最期を飾るのに、これが最も、しい御刀かと」
「…の親父殿の刀か」
信長は、
そして、間もなく一時(二時間)が経とうかという頃になって
「三保野」
「は、はい。姫様」
「城へ、殿の元へ帰ろう…。もう十分です」
濃姫は静かに告げると、ようやくその重い腰を浮かせたのである。
そのまま姫は、輿に戻ろうとして大きく踵を返した。
その時──
バシャッ!!
思いがけぬことに、道三から賜ったあの短刀が、帯の間からすり抜けて、川の中へ滑り落ちてしまったのである。
濃姫は「あ!」となり、慌てて水面に目をやった。
幸い、短刀は川の流れを受けることなく、落ちた位置に、そのままの状態で沈んでいる。
川もそれほど深くはなく、流れも緩やかである為、今ならば小者に命じて、短刀を取りに行かせることも十分に可能だった。
しかし、姫はそれをしなかった。Profit Tax Return In Hong Kong
もはや取りに行ったとて意味はないと、そう思ったのである。
この刀の真の主は、もうこの世の人ではない…。
父の死と共に、この刀の役目も終わったのだ。
まるで父への未練を断ち切るように、濃姫はそう思い及ぶと
「参ろうか」
静かに三保野に笑いかけてから、ゆっくりと輿に向かって歩き始めた。
その刹那
「──!」
大きな黒い影が濃姫の横を駆け抜けていった。
姫は初め、野良犬か何かが横切ったのだろうと思っていたが、背後からふいにザブーンッ!という、
川に岩でも投げ入られたような大音が上がったのを聞いて、何事かと慌てて振り返った。
視線の先の光景を見て、濃姫と三保野は思わず目を丸くした。
そこには、きちんとした身形(みなり)の小柄な女性が一人、腰から下を川の水に浸しながら、
袖が濡れることもお構い無しに、両手を真っ直ぐ水底に伸ばしている姿があった。
何かを探しているのか、闇雲ながらも、必死になって両手を動かしている。
「あの者、いったい何をしているのでございましょう?」
三保野が怪訝そうに眉根を寄せた時、川の中の女は「あ!」と声を上げ、水底から何かを引き上げた。
水が滴る女の手には、先ほど濃姫が落としてしまった道三の短刀が握られている。
“あれは…!”と濃姫が心の中で叫ぶや否や、女は川から上がり、そのまま小走りに姫の前に近付いて来た。
「畏れながら──これを。落とし物にございます」
女は濃姫の前で片膝を折ると、双の手に乗せた短刀を恭(うやうや)しく差し出した。
姫は驚いて、二、三度目を瞬かせると
「…そなた、これを取りに行く為に、わざわざ川の中へ飛び込んだのか?」
「はい。とてもお寂しそうに川の中を覗き込んでおられましたので、何か大切な物を落とされたのではと思いまして」
「………」
「違いましたでしょうか? 余計なことを致したのでしたら、申し訳ございませぬ。私はただ──」
「いいえ。……大切な物じゃ」
濃姫は小さく呟くと、そっと女の手から短刀を受け取った。
不思議な思いだった。
父への未練を断ち切ろうと泣く泣く見捨てたはずの短刀が、再び自分の手に戻って来たのである。
道三がこの短刀に込めた強い想いが、死しても尚 叫び続けているのかもしれない…。
何やら奇妙な気を感じると共に、大きな安堵の思いが、濃姫の胸の中でゆるやかに広がっていた。
「私の為に、申し訳ないことを致した。そのように美しき小袖を濡らさせてしもうて」
濃姫が詫びると、女はかぶりを振ってから、深く頭を垂れた。
「そんな…、畏れ多いことにございます」
「その身形からすると町民ではあるまい。名のある家の者か?」
「申す程の家ではございませぬ。…されど父は、丹羽郡小折の土豪にございまして…」
一人快然と微笑(わら)う夫を、小見の方は怪訝とも得心とも付かぬ表情で、しげしげと眺めるのだった。
草木も眠る丑三つ刻。
那古屋城・奥御殿にある夫婦の寝所に、座敷の中央に敷きのべられた白い夜具の上に端座し、
道三から賜った短刀を、大事そうに両の手で握り締める濃姫の姿があった。
灯明の火はかれこれ一時ほど前に吹き消され、室内は障子越しに射し込む青白い月明かりのみであったが、
濃姫はそれでもお構い無しに、https://www.easycorp.com.hk/blog/profit-tax-return-in-hong-kong/ ほぼ影と形しか見えない短刀を、和やかな面持ちで眺めていた。
姫のすぐ傍らでは、夜着を着崩した信長が、小さな寝息を立てながらすやすやと眠っている。
帰城した時には、濃姫を掻き抱いて『今宵は寝かさぬ!』などと叫んでいた信長だったが、結局この通り。
事が済んだらさっさと寝入ってしまったのである。
だがそれも致し方のないことだろう。
此度の会見で散々体力と神経をすり減らし、正徳寺から那古屋城までの行きと帰りの往復。
その上道三を長々二十町も見送ったとあれば、疲れ切っていて当然である。
「……殿」
濃姫は、我が子を見守る母のような表情で、暫し信長の寝顔を見つめると、ふぅっと一息吐いてから再び短刀に目線を移した。
『──これをそなたに返すぞ。借りていた親父殿の刀じゃ』
『有り難う存じます。 …して、お役に立ちましたか?』
『ああ、大いにな』
『それは何よりな事にございます』
『親父殿の意はほぼ決まっていたようじゃが、儂がこの刀を身に帯びているのを拝された事で、
よりはっきりとお心を決めて下されようであった。きっと、そなたの思いが親父殿に通じたのであろうな』
つい数時間前。
この床の上で信長と交わした会話が、濃姫の頭の中を足早に駆けていった。
信長は思いが通じたと言うが、きっと道三は少なからずの失望を覚えた事であろう。
尾張攻略の布石であったはずの娘が、今ではすっかり信長の支持者となり、
道三から賜った短刀を、夫を殺める為ではなく、夫の命を守る為に使ったのだから──。
美濃の為に何一つ尽力出来ず、父の期待にも応えられなかった事を、濃姫は内心申し訳なく思っていた。
しかし、後悔の念などはまるでなかった。
自分ただ、道三から短刀を賜った折の『 父上様を刺す刀になるやも 』という宣言通り、この刀で父を刺しただけである。
鞘を抜かずして、道三の心をひと衝(つ)きにしてみせたのだ。
自賛こそすれ、いったい何を悔いる事があろうか?
──これで良かったのだ。察しの良い父上様のこと、きっと分かってくれていよう。
濃姫は自分に言い聞かせるように、何度も心の中で呟いた。
「……何じゃ、まだ寝ておらなんだのか」
ふいに信長の身体が大きく動き、その寝惚け眼が、布団の上で端座する妻の面差しを捕らえた。
「如何した? このような夜更けに。それも左様な物を握り締めて」
「…いえ、別に」
陰りのある微笑を浮かべつつ、濃姫が朴訥(ぼくとつ)に告げると
「よもや今更になって、儂の寝首を掻こうと算段致しておったのではあるまいな?」
信長は悪戯っぽく笑った。
姫の頬が静かに緩む。
「そんなつもりは毛頭ございませぬ。ここで殿を殺めてしもうたら、あなた様の天下統一を見届ける私の夢が叶わなくなってしまいます故」